13 雪上訓練_谷川岳 (2007年3月3~4日)
厳冬期の谷川岳と聞けば、人を寄せ付けない魔の山という先入観が先に立つが、3日、4日共良く晴れた穏やかな谷川岳であった。
抜けるような青空を背景に谷川岳(右上のお臍はザンゲ岩) (画像はクリックで大きくなります)
今回の山行の目的は、酷寒の時期に自分の手で雪洞を掘りそこで一夜を過ごすこと、さらには様々な冬山の危険に対し、それを回避する技術を身に付けることにあった。
折角雪上訓練にやって来た谷川岳がこんなに良い天気に恵まれたことは、喜ぶべきなのか、肩透かしを食らったと言うべきなのか、複雑な心境であった。
何はともあれ、天候に恵まれ、予定したスケジュールは順調にこなす事ができた。
吹雪やガスの中での経験は今回味わえなかったが、それはまた別な機会に譲ることにしたい。
眩しいばかりの俎嵓(まないたぐら)


雪上訓練でまず身に付けなければならない技術は、重い荷を背負っての歩行である。荷の重さは、ほぼフル装備とあって、男性で25Kg、女性で20Kg前後を担がなければならない。
その上、雪が柔らかければワカンを履き、固ければアイゼンをつけて歩くことになる。今回は雪の状況よりワカンは持たず、終始アイゼンをつけての歩行であった。
ふらつきながら歩くようではまず失格であるが、さすがにそんな人は居なかった。しかし、急な斜面を下る時や斜面をトラバースする時は緊張感が走るし、中にはアイゼンの下に雪ダンゴが出来て苦労する人も居た。
ストックで行くか、ピッケルに持ち替えるかというすばやい状況判断も必要である。
足の裏全体で雪面を踏み、両足とストックかピッケルの3点のうち、2点は常に接地しておくこと、翌日には滑落停止や確保技術を修得することになるが、何と言っても基本は、転ばないこと滑らないことに尽きる。
白毛門(右)、笠ケ岳(左)、朝日岳(中央)
1時間15分程で、今夜の寝場所、天神尾根の熊穴沢避難小屋に到着した。この辺りに雪洞を掘ることになる。小屋は屋根がほんの少し見える程度で、すっぽりと雪に埋もれていた。
僅か1時間と少しの歩行であったが、いつもの山歩きと比べすごく負荷の掛かった歩行であった。これから思うに、冬山の一番の基本は体力、持久力なのかも知れない。
上州武尊山
雪洞堀は自分としては始めての経験である。何もかもが新しく、全てが勉強であった。
思い出しながら雪洞掘りを辿ってみたい。
まずはどこに雪洞を作るかの場所選びだ。一番良いのは東向きと先輩は話していたが、今回は比較的なだらかな南向きの斜面を選んだ。
次に、雪洞の上に人が入り込まないように、おおよその大きさを想定して赤旗でエリアを確保した。
2人で作業するため、2mくらいの幅で斜面を垂直に切り開き、そこから前進するように穴を掘り始めた。
スコップで雪を掘るくらい大したことはないと思っていたが、さにあらず、雪は固く締まっておりスコップが容易に刺さらないのである。作業はなかなか捗らなかった。スノーソーで切り込みを入れたり、スコップで表面を突き崩すようにしながら、交代で少しづつ掘り進めた。
掘った雪はブルーシートの上に乗せ、適当に溜めてからシートごと引きずって斜面から雪を突き落とすという作業を根気良く続けた。
ところが、またまた障害に突き当たってしまった。かなり太い枝を持つブッシュが何本も出てきたのである。その枝をのこぎりで切りながら掘り進めて行かねばならなかった。
それにしても、スコップは分かるが、ブルーシートやスノーソー、のこぎりと道具を持ってきている先輩には頭が下がる。
2m程掘り進んでから、今度は幅を広げていった。作業は3箇所で進めていき、中でつなげるようにした。今日の人数を考慮し奥行き2m、幅5m、高さ1.5m程の雪洞が2部屋出来上がった。その後、出入り口を雪のブロックで塞いでいき、一人が通れる出入り口を残して大体の形は出来上がった。ここまでで3時間以上掛かっていた。身体もへとへとであった。
これで終わりかと思ったが大間違い、これからが大事な仕上げ作業である。
雪壁の表面を出来るだけきれいに仕上げる。特に天井は平に滑らかに仕上げておかなければならない。天井に凸凹があると、部屋が暖まった時、凸のところから水が落ちてくるとのこと。
その時は実感出来なかったが、後でその意味が良く分かった。逆に長期戦の場合は、これを逆利用して水を作るのだそうだ。天井をアーチ形に仕上げ、ろうそくの近くに凸を1箇所作り、その下に容器を置いておけば、朝までにかなりの水を採集できるとのこと。
次に、荷物を置くための棚を掘り込んだり、ロウソクを立てる棚を作りこむ。最後に出入り口をツエルトで塞いでやっと完成である。
これで、楽しい宴会と食事、それに静かな夜を確保出来るのだから疲れも吹っ飛ぶと言うものである。その後の雰囲気はご想像にお任せする。
雪洞の中から入口方向
翌日は、近くの斜面を利用して3時間掛けて雪山で必要な技術を教えて貰った。
長くなったので、簡単に何を習ったかだけを書いてみる。
・滑落停止(ピッケル制動)
・耐風姿勢
・ロープワーク(舫い結び、8の字結び、ダブル8の字結び、インクノット)
・確保技術(スタカットビレー、半マストビレー、肩掛けビレー、エイト環によるビレー)
・コンテニュアス歩行とビレー
・フィックスロープとプルージック
・危険箇所のトラバース方法(ロープによる確保)


1回の訓練で全部を覚えて、使いこなすことは出来ないが、ある程度は身についたし、何よりも大事なことは、講師をしてくれた先輩が言っていたように、習ったことにより気持ちにゆとりが出来、それが登山にいい影響を与えてくれると言うことである。
貴重な体験をした2日間であった。
歩いた軌跡
行程
3/3 天神平駅10:02-11:16熊穴沢避難小屋付近(雪洞作り)~16:00
3/3 宿営地(雪洞)14:32-15:45トマノ耳15:53-16:21宿営地(雪洞泊)
3/4 宿営地(雪洞)8:23-(雪上訓練)-11:28宿営地(昼食)12:14-13:00天神平駅
肩の小屋・トマノ耳 輝く尾根と雪庇
抜けるような青空を背景に谷川岳(右上のお臍はザンゲ岩) (画像はクリックで大きくなります)
今回の山行の目的は、酷寒の時期に自分の手で雪洞を掘りそこで一夜を過ごすこと、さらには様々な冬山の危険に対し、それを回避する技術を身に付けることにあった。
折角雪上訓練にやって来た谷川岳がこんなに良い天気に恵まれたことは、喜ぶべきなのか、肩透かしを食らったと言うべきなのか、複雑な心境であった。
何はともあれ、天候に恵まれ、予定したスケジュールは順調にこなす事ができた。
吹雪やガスの中での経験は今回味わえなかったが、それはまた別な機会に譲ることにしたい。
眩しいばかりの俎嵓(まないたぐら)


雪上訓練でまず身に付けなければならない技術は、重い荷を背負っての歩行である。荷の重さは、ほぼフル装備とあって、男性で25Kg、女性で20Kg前後を担がなければならない。
その上、雪が柔らかければワカンを履き、固ければアイゼンをつけて歩くことになる。今回は雪の状況よりワカンは持たず、終始アイゼンをつけての歩行であった。
ふらつきながら歩くようではまず失格であるが、さすがにそんな人は居なかった。しかし、急な斜面を下る時や斜面をトラバースする時は緊張感が走るし、中にはアイゼンの下に雪ダンゴが出来て苦労する人も居た。
ストックで行くか、ピッケルに持ち替えるかというすばやい状況判断も必要である。
足の裏全体で雪面を踏み、両足とストックかピッケルの3点のうち、2点は常に接地しておくこと、翌日には滑落停止や確保技術を修得することになるが、何と言っても基本は、転ばないこと滑らないことに尽きる。
白毛門(右)、笠ケ岳(左)、朝日岳(中央)
1時間15分程で、今夜の寝場所、天神尾根の熊穴沢避難小屋に到着した。この辺りに雪洞を掘ることになる。小屋は屋根がほんの少し見える程度で、すっぽりと雪に埋もれていた。
僅か1時間と少しの歩行であったが、いつもの山歩きと比べすごく負荷の掛かった歩行であった。これから思うに、冬山の一番の基本は体力、持久力なのかも知れない。
上州武尊山
雪洞堀は自分としては始めての経験である。何もかもが新しく、全てが勉強であった。
思い出しながら雪洞掘りを辿ってみたい。
まずはどこに雪洞を作るかの場所選びだ。一番良いのは東向きと先輩は話していたが、今回は比較的なだらかな南向きの斜面を選んだ。
次に、雪洞の上に人が入り込まないように、おおよその大きさを想定して赤旗でエリアを確保した。
2人で作業するため、2mくらいの幅で斜面を垂直に切り開き、そこから前進するように穴を掘り始めた。
スコップで雪を掘るくらい大したことはないと思っていたが、さにあらず、雪は固く締まっておりスコップが容易に刺さらないのである。作業はなかなか捗らなかった。スノーソーで切り込みを入れたり、スコップで表面を突き崩すようにしながら、交代で少しづつ掘り進めた。
掘った雪はブルーシートの上に乗せ、適当に溜めてからシートごと引きずって斜面から雪を突き落とすという作業を根気良く続けた。
ところが、またまた障害に突き当たってしまった。かなり太い枝を持つブッシュが何本も出てきたのである。その枝をのこぎりで切りながら掘り進めて行かねばならなかった。
それにしても、スコップは分かるが、ブルーシートやスノーソー、のこぎりと道具を持ってきている先輩には頭が下がる。
2m程掘り進んでから、今度は幅を広げていった。作業は3箇所で進めていき、中でつなげるようにした。今日の人数を考慮し奥行き2m、幅5m、高さ1.5m程の雪洞が2部屋出来上がった。その後、出入り口を雪のブロックで塞いでいき、一人が通れる出入り口を残して大体の形は出来上がった。ここまでで3時間以上掛かっていた。身体もへとへとであった。
これで終わりかと思ったが大間違い、これからが大事な仕上げ作業である。
雪壁の表面を出来るだけきれいに仕上げる。特に天井は平に滑らかに仕上げておかなければならない。天井に凸凹があると、部屋が暖まった時、凸のところから水が落ちてくるとのこと。
その時は実感出来なかったが、後でその意味が良く分かった。逆に長期戦の場合は、これを逆利用して水を作るのだそうだ。天井をアーチ形に仕上げ、ろうそくの近くに凸を1箇所作り、その下に容器を置いておけば、朝までにかなりの水を採集できるとのこと。
次に、荷物を置くための棚を掘り込んだり、ロウソクを立てる棚を作りこむ。最後に出入り口をツエルトで塞いでやっと完成である。
これで、楽しい宴会と食事、それに静かな夜を確保出来るのだから疲れも吹っ飛ぶと言うものである。その後の雰囲気はご想像にお任せする。
雪洞の中から入口方向
翌日は、近くの斜面を利用して3時間掛けて雪山で必要な技術を教えて貰った。
長くなったので、簡単に何を習ったかだけを書いてみる。
・滑落停止(ピッケル制動)
・耐風姿勢
・ロープワーク(舫い結び、8の字結び、ダブル8の字結び、インクノット)
・確保技術(スタカットビレー、半マストビレー、肩掛けビレー、エイト環によるビレー)
・コンテニュアス歩行とビレー
・フィックスロープとプルージック
・危険箇所のトラバース方法(ロープによる確保)


1回の訓練で全部を覚えて、使いこなすことは出来ないが、ある程度は身についたし、何よりも大事なことは、講師をしてくれた先輩が言っていたように、習ったことにより気持ちにゆとりが出来、それが登山にいい影響を与えてくれると言うことである。
貴重な体験をした2日間であった。
歩いた軌跡
行程
3/3 天神平駅10:02-11:16熊穴沢避難小屋付近(雪洞作り)~16:00
3/3 宿営地(雪洞)14:32-15:45トマノ耳15:53-16:21宿営地(雪洞泊)
3/4 宿営地(雪洞)8:23-(雪上訓練)-11:28宿営地(昼食)12:14-13:00天神平駅
肩の小屋・トマノ耳 輝く尾根と雪庇













この記事へのコメント
残念! こうゆう研修を会でやって貰いたいよね。おいらは二回遭難らしいことを経験しているけど、そうゆう時に役立つと思うよ。いずれも自力で
下山したけどね。今週GPSの講習会に行ってくるわ。GPS買わなきゃ。
ああ金が欲しい。
いつも真っ先のコメントありがとうございます。
今回はいろいろ書きたいことがいっぱいあったのですが、筋肉痛と疲労感、それに眠気が加わってあえなくダウン。未だに筋肉が痛い。
この程度で勘弁して下さい。
一番盛り上がったのは、何と言っても雪洞の中での親睦会です。
歌あり、山談義あり、山技術の講釈から軽いジョークまで時間を忘れて騒いでおりました。どんなに大声を出しても他人様には迷惑かけませんので本当に気楽でした。鬼さんにも是非来て欲しかった。次回はよろしくお願いします。
ためになる山行のようでしたね。
山はやはり経験の積み重ねが重要なようです。
これからも沢山の山行記事を期待しています。
コメントありがとうございます。
本当に貴重な経験でした。講習会に参加してみますと自分の知らないことが一杯あることに気付きます。
諸先輩の皆さんはいろんな知識や技術それに経験が豊富ですので、これからも山行に参加しながら学んで行きたいと思っております。
雪洞作りにスノーソーやのこぎりも使うんですね。少人数の我が隊はやっぱり無理だな~。イグルーを極めます(笑)。
大変良い勉強になりましたね。全部マスターできなくても「心の余裕」が大事なのですね、参考になりました。私も少しその余裕を戴いたような気がします。有難う御座いました。
皆さんコメントありがとうございます。
テントミータカ様
小出俣山も自分の視界には絶対入っていたと思います。ただ、知らぬが故に視線がそこにとどまらなかった。
もう少し谷川前衛の山々にも尊敬の念を持っていたら、ばっちりと映像に残していたものをと返す返す残念です。これからは山全体を見るよう意識します。折角の良い山をみすみす逃がしたくはありません。
インレッド様
良き先輩に恵まれ本当に幸せです。単に教科書的な訓練ではなく、自分の経験からの活きた指導をしてくれますし、参加者に合わせて臨機応変に対応してくれます。今回もうひとつの教えは、あれもこれも覚えることは無い、1つを完全にマスターする方が大事だよと言うことです。いざという時に使えるのは自信を持って覚えたものだけだと言うことでした。
またそこでの実践的な雪上訓練、滅多に受けられるものではありませんよね。
甘納豆さんの人徳の賜物なのでしょう。今年は素晴らしい年ですね。
これからも、素敵な山行記録、楽しみにしております。
コメントありがとうございます。
今回撮った写真の枚数、何枚と思いますか?
何と、189枚でした。
途中で、電池がか細くなってきてスイッチを切っては暖めて、何とか撮り続けました。
ただ、一杯撮るのは良いのですが整理するのが大変。
まして、ブログにどれを乗せるかと吟味していると、それだけで時間がつぶれてしまいます。
何事もほどほどですね。
遠い過去に訓練しただけで近年訓練をサボっており頭が下がりました。
土日は東北も天気良く気温が上がって緩んでましたが、谷川も雪も少なさそうでしたね。谷川は遠い過去に3級の岩ルートから登って以来ご無沙汰しております。
さて、当方ブログでご質問あった件、下記にご回答致します。
wとかwwwは、今若い方のチャットやブログで流行の表現で、**でした~wは**でした~(^_^)エヘッ位の意味でしょうか?wが多ければ多いほどその感情が大きいみたいなノリです。
当方はいい年ですがミーハーな為、使っております(*≧m≦*)ぷ~っ!!
冬の谷川は初めてでしたので、雪の多い少ないは判断できませんが、雪質という点ではさすが谷川岳と感じました。
新潟近郊のの里山とは違っていました。さらさらしていながらも固く、沢山積もっているかと思えば岩がむき出しになっていたりする。
風紋を見てもいかにも山に来たと思わせてくれます。
おやぢさんのブログの雪の写真もすごく印象的です。それに近かったのかも知れません。
wとかwwwのニュアンス、何となく分かりました。これからは、そのような感覚で見させて貰います。ありがとうございました。
ジィ~ジは寄る年波の所為か?気力が衰え更に
体力が音を立てて崩れていくようです。
ジィ~ジに代わり益々頑張ってください。
こんにちは、コメントありがとうございます。
本当に、2日間共谷川岳とは思えぬような晴天に恵まれ、たっぷりと楽しんできました。
ジィ~ジ様の気力、体力はご謙遜でしょう。あちこちの山の便りを楽しく読ませてもらっております。これからもよろしくお願い致します。